都立入試の全体像
都立高校の一般入試(学力検査に基づく選抜)における最終的な合否は、総合得点の高い順に決まります。その総合得点は3つの要素で構成されています。
総合得点の構成(1020点満点)
当日の5教科テスト。500点満点の素点を700点満点に換算します。
中3の内申点をもとに計算します。換算内申65点満点を300点満点に変換。
11月に実施される英語スピーキングテストの結果。A〜Fの6段階を0〜20点に換算。
この3つの合計が1020点満点の総合得点となり、高得点の受験生から順に定員まで合格が決まります。シンプルな仕組みに見えますが、それぞれの算出方法には理解が必要な手順があります。
学力検査点と調査書点の比率は原則7:3ですが、一部の高校では異なる設定があります(詳細は後述)。この比率が意味するのは、当日の試験が合否に与える影響のほうが内申よりもずっと大きいということです。
内申点の基本と換算内申
素内申とは
中学校の通知表に記載される9教科の評定(1〜5)をそのまま合計したものが素内申です。9教科すべてが5なら45点が上限です。
この素内申は計算が簡単なぶん、都道府県をまたいで自分の位置を把握するときに使いやすい数字です。ただし、都立入試の合否に直接使われるわけではありません。
換算内申とは
東京都では、素内申をそのまま使わず、実技4教科(音楽・美術・保体・技術家庭)を2倍にした換算内申を使います。
換算内申の計算式
主要5教科(国・数・英・理・社)の評定合計 + 実技4教科の評定合計 × 2 = 換算内申(65点満点)
なぜ実技教科を2倍にするのか。東京都の公式説明は明確ではありませんが、学力検査で直接測りにくい「体育や音楽への取り組み」を入試に反映させるための設計です。結果として、実技教科の評定が低い生徒は相対的に不利になります。
具体的な計算例
| 教科 | 評定 | 計算後の点数 |
|---|---|---|
| 国語 | 4 | 4点 |
| 数学 | 4 | 4点 |
| 英語 | 3 | 3点 |
| 理科 | 4 | 4点 |
| 社会 | 3 | 3点 |
| 音楽 | 3 | 6点(×2) |
| 美術 | 4 | 8点(×2) |
| 保体 | 4 | 8点(×2) |
| 技術・家庭 | 3 | 6点(×2) |
| 合計 | 素内申 32 | 換算内申 46 / 65点 |
素内申32点の生徒でも、換算内申では46点になります。このズレが、実技教科の2倍計算によって生じるものです。実技教科がすべて5であれば、主要5教科がすべて4の生徒でも換算内申は60点に達します。
中1・中2の成績は使われない
東京都の一般入試では、中3の2学期(または中3の最終評定)の成績のみが内申として使われます。中1・中2の成績は関係ありません。神奈川県は中2・中3、埼玉県は中1〜中3を使用するなど、都道府県によって異なります。東京都受験を考える生徒にとっては、中3の1年間——特に1学期・2学期——の内申が勝負です。
調査書点への変換
換算内申をそのまま入試に使うのではなく、さらに300点満点の調査書点に変換します。
調査書点の計算式
換算内申 ÷ 65 × 300 = 調査書点(300点満点)
先ほどの例(換算内申46点)なら:46 ÷ 65 × 300 ≒ 212点
換算内申が1点違うと調査書点は約4.6点変わります。オール5(換算内申65点)なら調査書点300点、オール4(換算内申52点)なら約240点、オール3(換算内申39点)なら約180点です。
この300点が、総合得点1020点のうちの「内申分」です。当日の学力検査が700点分ある以上、内申点の差は当日の得点差で十分に取り返せます。ただし志望校のレベルによっては、内申が合否に直結することもあります。
学力検査点の仕組み
一般入試では、5教科(国語・数学・英語・理科・社会)それぞれ100点満点、合計500点満点のテストが実施されます。
学力検査点の換算式
5教科の合計素点 ÷ 500 × 700 = 学力検査の換算得点(700点満点)
たとえば5教科合計350点なら:350 ÷ 500 × 700 = 490点。1教科あたり平均70点で490点となり、これに調査書点を加えた段階でかなりの競争力を持ちます。
自校作成問題について
日比谷・西・国立・戸山・青山・八王子東・立川・新宿・墨田川・小山台の10校は「進学指導重点校」として、国語・数学・英語の3教科を独自の入試問題で実施します。難易度が共通問題より高いため、これらの高校を目指す場合は早い段階からの対策が必要です。
7:3の比率とは何か
「学力検査:調査書 = 7:3」とは、総合得点(ESAT-Jを除く1000点)のうち700点が学力検査、300点が内申という配分のことです。大半の都立高校はこの比率を採用しています。一部の高校では「6:4」(学力600点・内申400点)を採用しており、内申の比重が高くなります。
ESAT-Jとは何か
ESAT-J(中学校英語スピーキングテスト)は、東京都が毎年11月に実施する英語の話す力を測るテストです。令和5年度入試から都立高校の合否判定に使われています。
タブレット端末に向かって音声を録音する形式で、面接官と話すわけではありません。試験はPartA〜PartDの4つのパートで構成され、英文の音読、質問への応答、情報を見て英語で話す課題などが出題されます。
ESAT-Jの得点換算
| グレード | 入試での点数 |
|---|---|
| A(最高) | 20点 |
| B | 16点 |
| C | 12点 |
| D | 8点 |
| E | 4点 |
| F(最低) | 0点 |
2026年度の結果では、中3生の平均スコアは74.9点(100点換算)で、約半数の生徒が80点以上を取ったとされています。グレードでいえばB〜Cに相当する生徒が多いということになります。
ESAT-Jで気をつけること
最大20点の影響を持ちますが、学力検査の700点・調査書点の300点と比べれば小さいのは事実です。ただし志望校との合格ラインの差が10点前後のボーダー付近の受験生にとっては、グレードが1段階変わるだけで合否が入れ替わる可能性があります。
対策として特別なことをするより、英語の授業でのスピーキング練習を丁寧にやり、都教委が公開している過去の問題スクリプトを一読しておくだけで十分な生徒がほとんどです。ESAT-Jの対策に過度に時間を割くより、11月の定期試験(仮内申に関わる)の勉強を優先する判断のほうが、多くの場合で合理的です。
なお、やむを得ない理由(インフルエンザ等の疾病)で当日を欠席した場合は措置申請の制度があります。しかし「戦略的に欠席すれば有利になる」という理由で受験しなかった場合は0点として扱われます。
2026年度の主な制度変更
全日制の分割募集が廃止
これが2026年度入試で最も重要な変更点です。
これまで一部の都立高校では、定員を前期と後期に分割し、2月と3月の2回に分けて選抜を行う「分割募集」という仕組みがありました。前期で落ちた受験生がもう一度チャンスを得られる制度でしたが、2026年度からは全日制課程においてこの後期分割募集が廃止されました(昼夜間定時制の5校のみ継続)。
廃止された主な理由は、前期でも定員割れしている学校で後期用に枠を確保する意味が薄れていたことです。後期用に残されていた枠は前期(第一次募集)に統合されたため、定員総数は変わりません。
受験生への影響としては、後期募集を「滑り止め」として考えていた層の戦略が変わることが挙げられます。都立の受け直し機会が第二次募集(欠員補充)のみになったため、出願時の志望校選びがより重要になっています。
深沢高校に「10:0」の新選抜方式が導入
都立深沢高校(世田谷区)では2026年度から、通常の「7:3」に加え「10:0」(学力検査のみで内申を使わない計算)も並行して算出し、受験生にとって有利なほうを採用する仕組みが導入されました。
これは同校が不登校経験のある生徒を中心に受け入れる「新たな受入環境充実校」に改編されたことと連動しています。不登校の事情などで内申がつきにくかった生徒でも、当日の学力で勝負できます。現時点では深沢高校のみの特例ですが、今後の都立入試全体の方向性を示す試みとして注目されています。
学級数の変化と倍率
2026年度の全日制の募集総数は1,029学級・40,240人で、前年より2学級分減少しています。学級増となったのは三田高校・石神井高校、減少となったのは竹早高校・広尾高校・総合工科高校などです。自分が受験を検討している高校の定員が変わっていないかは必ず確認してください。
推薦入試との違い
都立高校には一般入試(学力検査)以外に、1月下旬に実施される推薦入試があります。募集定員の最大20%が推薦枠です。
| 項目 | 推薦入試 | 一般入試 |
|---|---|---|
| 実施時期 | 1月下旬 | 2月下旬 |
| 選抜方法 | 調査書点+面接・作文・小論文など | 学力検査+調査書点+ESAT-J |
| 内申の比重 | 大きい(最大50%) | 30%(7:3の場合) |
| 内申の範囲 | 中3のみ(一部中2も考慮) | 中3のみ |
| 競争倍率 | 高い(2〜4倍台が多い) | 比較的低め(1〜1.5倍台) |
推薦入試では各高校が独自に配点を設定しており、面接・集団討論・小論文・作文などの内容によって大きく合否が変わります。日比谷高校は調査書点450点・集団討論200点・小論文250点など、高校ごとに全く異なります。
推薦入試は倍率が高く、一般入試より合格が難しいケースも多いです。推薦で不合格になっても一般入試に挑めるため、「まず推薦を受けてから一般で本勝負」という戦略は有効です。
内申が低い場合の戦略
「内申が悪いから都立は無理」と諦める必要はありません。一般入試では当日の学力検査が700点分あり、調査書点の300点と比べてずっと大きな比重を持ちます。
たとえば、換算内申39点(オール3相当)の調査書点は約180点です。換算内申52点(オール4相当)の約240点と比べると60点差がありますが、これは学力検査で1教科あたり約8.6点の差に相当します。5教科それぞれで平均点より8〜9点多く取るのは、十分に達成可能な目標です。
内申差を学力で逆転するには
内申の差(調査書点換算)÷ 700 × 500 ÷ 5 で、1教科あたりの必要な追加点数が計算できます。換算内申10点差 → 調査書点換算46点差 → 学力検査では各教科あたり約6.6点の差。これを念頭に目標を立てると、内申不足がどの程度の努力で埋まるか具体的にわかります。
2026年度から深沢高校に導入された「10:0」方式は、内申が極端に低い受験生に対する配慮の意味を持ちます。このような取り組みが広がるかどうかは今後の動向次第ですが、今の制度でも内申点だけで合否が決まるわけではないことは明確です。
志望校のレベル感と内申
都立高校の偏差値帯によって、内申と学力検査のバランスの重要度は変わります。偏差値60台後半〜70台の上位校(日比谷・西・国立など)では、合格ラインが非常に高く、内申も学力も両立していることが求められます。一方で偏差値50前後の中堅校では、内申が少々低くても当日の点数次第で十分に挽回できます。
まとめ
この記事で押さえたいポイント
- 都立一般入試の総合得点は学力検査700点・調査書点300点・ESAT-J 20点の計1020点満点
- 換算内申は実技4教科を2倍にして65点満点で算出する(東京都独自)
- 調査書点は「換算内申 ÷ 65 × 300」で求める
- 使われる成績は中3のみ。中1・中2は関係ない
- ESAT-Jは11月実施・最大20点。ボーダー付近の受験生には影響が大きい
- 2026年度から全日制の分割後期募集が廃止(定員総数は変わらない)
- 深沢高校では「10:0」の新選抜方式が試験的に導入された
- 内申が低くても学力検査で逆転は十分に可能
都立高校入試は「仕組みを知っているかどうか」が戦略の出発点になります。換算内申が何点で、当日何点取れば志望校に届くのかを数字で把握すること——それが具体的な勉強計画につながります。
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